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鏡を見ても一人

しるこ2026-07-09 16:18:08

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南極のカルデアベースで過ごしていた頃、よく夢を見た。現実味はないがとても暖かで、自分がこれまで感じた事の無いくすぐったさのある夢だった気がする。夢を見るということはつまり、僕は眠っていて、俺は起きていて。このまま僕が目覚めないと取り返しのつかないことが起きるかもしれないというのに。いつまでもゆらゆらと、ふわふわと意識が漂っていた。

サーヴァントは夢を見ない。英霊には睡眠も食事も必要ない。そんなことくらい頭では分かっている、分かっているのだ。それは幻想であり願望だ。欲望であり希望であり、小さなあったかもしれない過去だ。そんなものに縋るほどあの頃の僕は疲れていたのだろう。自分から霊薬を呷るほどに手を伸ばしたかった幻想は、今はどこにも見当たらない。

もし僕が人間で、実験と欲望から生まれた作り物ではない二重人格者だったのなら。僕は俺に話しかけられたのだろうか。


サーヴァントは夢を見ない。夢は幻想、夢は願望。しかし同じ身体、同じ脳の中で考えられた夢想は夢ではなく『自我』である。無意識下の欲望ではない、双方の自意識、あるいは空想かもしれないが。彼らは共に互いを想い合う。


移動式ベース、ノウム?カルデア。そのマイルームで俺は目を覚ます。なんだかとても暖かで、しかして嫌味のない安らかな夢を見ていた気がする。

俺が起きたということは、アイツは深層へと潜ってしまった。自分しかいないマイルームで俺は暇を持て余す。

俺は昔よりは自由に動けるようになったし、アイツは身体に執着がなくなった。そんな所までいい子ちゃんかよ、と吐き捨ててベッドの中に潜り込む。ひとりきりの身体に憧れた頃もあれど、マスターのいる英霊である以上勝手なことはできない。いっそ俺が真っ当な人間だったのなら、それならば。俺はアイツと喧嘩ができたのだろうか。


夢は幻想、夢は願望。夢想ならざる自我の対話は即ち夢に帰結する。夢とは言えぬ脳の中、自我と自我との集結の末。今日も彼らはどこかも知らないアパートの部屋で楽しげな自分と笑い合う。


「だからわざわざ擬似戦闘を?」
「そりゃあそうだろ!多重人格だろうとテメェはただの人だってマスターが、さぁ!」
「はは、たしかに君も僕だから心配にもなるわけか…助かるよ、ハイド」
「ジキルクンはいい子ちゃんの癖してその点の頭がないワケですし?」


1人な2人がこうあれと願った有り得ない時間は、自我の狭間に漂い続ける。