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ワンライまとめ 3

??????2026-07-09 16:18:08

3


??こころにあたえるよろこびよ

 広間に珍しい後ろ姿を見かけて、ソロモンは足を止める。既に夜の帳は落ち、夕食も終えてカスピエルやイポスなどの酒飲みたちしかいないのが常だった。白いローブを着崩さずバーの背の高い椅子に一人座っているので尚更場違いな雰囲気だった。そういえばソロモンはフォルネウスが酒を飲んでいるところを見たことがない。ほんの少しの好奇心も含んでソロモンはフォルネウスに近づいた。
「フォルネウス。隣いいか?」
「こんばんは、ソロモン。勿論どうぞ」
フォルネウスの前には透明の液体の入ったグラスと輪切りになったライムが一つ置かれているだけだった。たまにウァプラが飲んでいるような透明の酒かと思って見つめていたら、意図に気付いたらしいフォルネウスは苦笑してグラスを揺らす。
「飲んでみるかい?」
 挑戦的に言われてソロモンは慌てる。
「え、いや、まだ飲める年になってないし……」
 そうだね、と肯きながらフォルネウスはグラスの中身を一気に飲み干した。そういえばこういう酒は随分と度数が高いと聞いたことがある。
「だ、大丈夫か?」
 するとフォルネウスは辛抱たまらなくなって、とうとう腹を抱えて笑い出してしまう。
「大丈夫、大丈夫だよ。これ、ただの水だから」
 目尻に浮かんだ涙を拭いながら空になったグラスを揺らした。氷がからころと鳴る。
「なんでそんな紛らわしい……」
「飲んでるフリでもしておかないと彼らが飲めって言って聞かないんだよ。ボクの話はちゃんと聞いてくれないし」
 彼ら、と後ろのスペースでどんちゃん騒ぎしているメフィストたちに目線をやるのでソロモンも納得した。酒飲みの面子はほぼ決まっていて、だからこそ刺激を欲して絡んでくることはまあまあある。かくいうソロモンもよくカスピエルに高級な酒を奢られかけたりウァレフォルなどに「試しに一口どうだ?」と誘われたりするのだが。あまりにも酷くなるとフォカロルからの心を込めた説教が飛んでくるので未成年への誘惑は減ったものの、尚更夜の時間に広間に成人がいると飲ませようとするようになったとか。大変だなあと思う反面、そこからまわりと打ち解けるようになったメギドもそこそこいるようで、無理やりなものでなければある程度許容されているという。
「そういえば、フォルネウスって飲めないのか?」
「さあ。どうだろう。実は飲んだことがないんだ」
「えっ、そうなのか?」
 意外、というほどではないものの、大人になったらみんな酒を飲むものだと思っていたソロモンは驚愕してしまう。フォルネウスは思うところがあるのか、カウンターの棚に並べられた酒瓶を眺めている。
「そんなにおかしいことかな?」
「いや、おかしい……ことじゃないけど……」
 思えば、ソロモンの見ないうちにここの酒棚も随分と豊かになっていた。最初の頃はブネやフラウロスの飲みさしのものしかなかったというのに、今ではそれぞれのメギドが気に入っている銘柄を持ち寄り、ワインセラーまでフル稼働させている。
「今まで興味が湧かなくて。それに、飲んだだけで理性を失う危険があるなんて、ちょっと怖いだろう?」
 フォルネウスは恥ずかしそうにはにかんだ。「後ろの喧しい奴らには内緒にしておくれよ」と小声で言うので笑って頷いた。
「ああ、でもね、持ってないわけじゃないんだ」
「?」
 首を傾げるソロモンをフォルネウスはじっと見つめる。見定めている、というよりは自分の行いに間違いがないか何度も確認しているような目つきだった。
「一つ、とびきりのものをこの間貰ったんだ。飲まないからと断ったのにどうしてもって言われて。それで、なのだけど……よかったら貰ってくれないかい?」
「ええ? 俺?」
 行き場のない酒のあてなどここならどこにでもあるだろう。なんなら広間に置いておくだけで次の日には空になっている。誰のかわからないものはあくどいメギドたちがああだこうだと言い訳を作ってかっぱらっていく。