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みちくさ

??????2026-07-09 16:18:08

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 ん、と無造作に渡されたのは桜の枝だった。
どこかから手折って来たのか、半分ほど瑞々しく咲いている。
「なんですかこれ」
「だから、今幻太郎に返す金がねえからさ」
そうそう、確か借金の催促をしていたのだった。返ってきたらめっけもん、返って来ないくてもまあいいか、といういい加減な気持ちで日常茶飯事になったやりとり。そのさなかに持っていたビニール袋から取り出されたのだった。
「これやるからもうちょい待って」
帝統にしては殊勝である。
「今日の要件はそれだけですか? 麻呂はもう寝る時間なのじゃ」
「あっストップストップ! 泊まらせてくれ!」
ドアを閉めようとしたら滑り込むさまはしなやかな猫のようで少し面白い。
まだ許可はあげてないんだけどなぁ、と呟くとダメなのか!?と変な顔をするので優しい小生は嘘ですよ、と言ってあげるのだ。
「それにしてもこれ、どうしましょうね」
帝統に「布団を使いたかったら風呂に入れ」と命じたらすごすごと脱衣所に行ったのを見送って、握ったままの桜の枝を眺める。
残念ながら野郎一人暮らしの家に花瓶なんてものはない。コップを使うと明日小生の使うコップがない。明日百円均一で買ってくるまでは紙コップでいいか。
洗い物を面倒と思う時、大抵紙コップと紙皿を使うので備蓄は潤沢にあったがここでひとつの問題が。 枝が長すぎてバランスが悪い。

「......切るか」

 どん、がたん、ばきん、と音を鳴らしていると風呂から上がって下着一枚の帝統がどたどたと寄ってくる。
「なんで枝を包丁で切ってんだよ」
「危ないですよ。破片が飛ぶかも」
「いや、それはそうだけどって危ねえ! ほんとに飛ばすなよ!」
がたん、と一際大きな音が鳴って太い破片が間一髪避けた帝統の後ろの壁に突き刺さる。
「これ切れる鋏がなかったんですよ」
「びっくりした......新手の怪談になれるぜ」
「いいですね。枝切り爺としてシブヤの七不思議になりましょうとも」
嘘ですけど。お決まりの文句をへえへえと流した帝統はまな板の上の枝をひょいと手に取って、資源ゴミの日に出そうと思ってキッチンの端にまとめていたビール瓶に突き刺した。
「うわ.........風情のない.........」
「紙コップよかマシだっつの」
「ハイネケン漬けの桜............本当に無粋.........」
「なんでだよハイネケン美味いだろ」
「美味いですけど。今日も飲みます?」「おう」


「で、そのまま置いちゃったんだ」
帝統に渡されてたら3日経った枝は、当初咲いてた部分は既にぱらぱらと散り始め、蕾だったところが満開に。それを珍しげにつんつん小突くピンク頭。
「案外しっくり来たんですよねえ、これが」
そう。あんなにぶーたれてた癖に我ながらびっくりするほど馴染んでいた。八畳のせせこましい部屋の真ん中を陣取るおこたのそれまた真ん中を彩る桜は、この雑景には華やかすぎて、だからビールの瓶くらいがちょうど良いんだろう。


「そんな幻太郎にプレゼントのお時間で?す」
ごん、と乱数はトートバッグの中からギフト包装された箱を取り出す。
「なんですか。うわ重い」
 手に取ってみるとビール瓶よりいくらか小ぶりな直方体は思っていたよりかなり重い。陶器ですかね。
あけていーよ、と許しを得て包装を解いていく。
中身は瓶のようだった。エキゾチックに花や草が描かれている。どこかの工芸品のようだ。コップにするには随分と重たくて大きい。もしかして花瓶か?
「ありがとうございます。なんですかこれ」
「メキシコのタラベラ焼」
「なんでまたいきなり」
「ちょうどメキシコに住んでたデザイナー仲間が日本に帰ってきたからお使いしてもらったの。で、昨日届いたから持ってきた」
「はあ......それは、わざわざどうも」
 不思議といえば不思議だった。乱数はともかく帝統はなんでもない日に物を遣すひとではない。というか物を寄越す余裕があるなら金返せ。